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大阪地方裁判所 昭和34年(行)2号 判決

神戸市東灘区魚崎町魚崎一八二番地

原告

大原亨

同所

原告

大原まつ

原告ら訴訟代理人弁護士

金子新一

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

吉瀬維哉

右指定代理人検事

下村蔵

法務事務官 葛本幸男

大蔵事務官 村上睦郎

中西一郎

主文

被告が昭和三三年一〇月一六日付でした原告大原亨の相続税の課税価格を金五三九万〇三〇〇円とする審査決定中金四七三万一九八二円を超れる部分及び同月二一日付でしたが原告大原まつの相続税の課税価格を金五二九万五六五二円とした審査決定中金三四六万六四九八円を超える部分はいずれもこれを取消す。

原告らのその余の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告らの負担とする。

事実

(原告らの申立及びその事実上の陳述)

原告ら訴訟代理人は「被告が昭和三三年一〇月一六日付でした原告大原亨の相続税の課税価格を金五三九万〇三〇〇円とする審査決定及び被告が同月二一日付でした原告大原まつの相続税の課税価格を金五二九万五六五二円とする審査決定中金二三四万五一五五円を超える部分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べたうえ、原告らの相続財産の明細についての被告の主張について別紙(下段)のとおり答弁した。

一、原告大原亨は昭和一七年一二月二一日原告大原まつと結婚すると同時に、同原告の父である訴外亡大原松之助及び同人の妻フミと養子縁組したが、松之助は昭和二八年一二月二一日死亡し原告らにおいて相続した。

二、原告大原亨は、昭和三一年九月三〇日訴外芦屋税務署長に対し別表一(イ)のとおり相続税を零円とする相続税の申告書を提出した(相続税額が零円であるから相続税法第二七条の申告に当らない。)ところ、昭和三二年六月一八日同税務署長から別表一(ロ)のとおり相続税の課税価格を金六七一万〇八八〇円、相続税額を金二〇九万九三二〇円とする相続税の賦課決定を受けたので、これを不服として同年七月一五日再調査の請求をしたが、決定がないまゝ審査請求をしたものとみなされたが、被告は審理の結果昭和三三年一〇月一六日付で原処分の一部を取消し、別表一(ハ)のとおり課税価格を金五三九万〇三〇〇円、税額を金一五七万一一二〇円とする審査決定をし、翌一七日に原告に通知した。

三、原告大原まつは昭和三一年三月二九日前記税務署長に対し一亘相続税の申告書を提出したが、その後同年一一月一九日及び翌三二年一月二二日の二度に亘り修正申告書を提出し、その最終の申告額は別表二(イ)のとおり相続税の課税価格を金二三四万五一五五円、相続税額を金四六万八五三〇円とするものであつたが、昭和三三年三月二七日右税務署長から別表二(ロ)のとおり課税価格を金七八九万九五四四円、税額を金二五九万四七七〇円とする更正決定を受けたので、これを不服として同年四月二二日再調査の請求をしたが決定のないまゝみなす審査請求に移行したところ、被告は審理の結果同年一〇月二一日原処分の一部を取消し、別表二(ハ)のとおり課税価格を金五二九万五六五二円、税額を金一五三万三二四〇円とする審査決定をした。

四、ところで原告大原亨の相続税の課税価格は零円、原告大原まつのそれが金二一五万二七二六円であることは別紙下段(原告らが相続により取得した財産の明細についての被告の主張に対する原告らの答弁)のとおりであるから本件審査決定にはいずれも課税価格を過大に認定したかしがあり、原告大原亨の課税価格を金五三九万〇三〇〇円とした本件審査決定は全部違法であるからその取消を求め、また原告大原まつの課税価格を金五二九万五六五二円とした本件審査決定は右の金額を超える部分につき違法であるが、同原告がさきに課税価格を二三四万五一五五円とする修正申告をしていることは前記のとおりであるからこの申告価格を超える限度でその取消を求める。

(被告の申立及びその事実上の陳述)

被告代理人は、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、請求原因に対し同一乃至三の事実は認める、同四の事実は争うと答弁したうえ、原告らが相続により取得した財産の明細につき別紙(上段)のとおり主張し、これによれば原告らの本訴請求は失当であると述べた。

(証拠)

原告ら訴訟代理人は、甲第一号証、第二乃至第四号証の各一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七、第八号証、第九、第一〇号証の各一、二、第一一乃至第一六号証を提出し、証人笠井隆、同佐々木源一、同石川健子の各証言、原告ら各本人尋問の結果を援用し、乙第一二、第一七号証、第二五、第二六号証の各一乃至三、第三〇号証の一乃至四、第三三、第三四号証の各一、二、第三五乃至。第三七号証、第三八号証の二の各成立は不知、第三、第五号証、第七乃至第一一号証、第二九号証、第三八号証の一中いずれも官公署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知、その余の乙号各証の成立はいずれも認めると述べ、被告代理人は、乙第一号証、第二号証の一乃至三、第三乃至第一七号証、第一八乃至第二一号証の各一、二、第二二乃至第二四号証、第二五、第二六号証の各一乃至三、第二七号証、第二八号証の一、二、第二九号証、第三〇号証の一乃至四、第三一、第三二号証、第三三、第三四号証の各一、二、第三五乃至第三七号証、第三八号証の一、二を提出し、証人大原文雄、同村岡道久、同東栄太郎、同河村昭三の各証言を援用し、甲第一五、第一六号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立はいずれも認めると述べた。

理由

第一原告大原亨の請求について

一、請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで相続税の課税価格について判断する。

(一)  相続により取得した財産

1 宅地

同原告が被告主張のとおり本件土地(持分7/8)を相続により取得したこと及びその価額が六〇万二一六一円であることは当事者間に争いがない。

2 株式

(1) 同原告が被告主張の株式のうち大東塗料の株式六〇〇株、宇和島運輸の株式一二〇株、木津川土地の株式一五〇株、瀬戸内海観光の株式一〇〇株、大阪舶用造機の株式二八五〇株、井筒屋百貸店の株式二五株をそれぞれ相読により取得し、その価格の合計額が二七万六五五〇円であることは当事者間に争いがない。

(2) いずれもその成立に争いがない甲第一号証、乙第四、第六号証、官公署作成部分はいずれもその成立に争いがなく、その余の部分は証人東栄太郎の証言及び弁論の全趣旨によつていずれも真正に成立したものと認められる乙第三、第五号証、第七乃至第一〇号証、第二九号証、官公署作成部分はその成立に争いがなく、その余の部分はいずれも弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第三八号証の一及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる同号証の二によれば、同原告はいずれも亡松之助が保有していた大同酸素株式会社の株式七万二〇七五株中五万〇六五〇株、阪神電鉄株式会社の株式一六〇〇株、南海電鉄の株式四〇九株、日本信託銀行の株式三〇〇〇株、関西汽船株式会社の株式六五一株、大日本紡績株式会社の株式二〇〇株、住友金属工業株式会社の株式二〇〇株、三菱重工業株式会社の株式四五株を相続により取得したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はないところ、相続開始当時右各社の株価が被告主張のとおりであつたことは当事者間に争いがないから右価額の合計額は四三四万三八六八円である。

(3) 同原告が被告主張の南海電鉄株式会社の新株引受権を相続により取得したことを認めるに足る証拠はないから被告のこの点の主張は失当である。

(4) いずれもその成立に争いがない乙第二三、第二四号証によれば亡松之助は株式会社誠進書房の二〇〇株の株主として、また大原河海工業株式会社の五〇〇株の株主としてそれぞれ同社の株主名薄に登載されていたことが認められ、他に右認定に反する証拠はないが、証人大原文雄の証言及び原告ら各本人尋問の結果によれば、亡松之助は単なる名義上の株主にすぎず、実質上は右株式を保有していなかつたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はないから、同原告が亡松之助から右会社の株式を相続により取得することはあり得ないというべきで、被告のこの点の主張は失当である。

(5) 原告大原まつが神東興産株式会社の株式二八〇〇株(内訳、旧株一七〇〇株、新株一一〇〇株)を相続により取得したことは後記のとおり当事者間に争いがないところ、右事実といずれもその成立に争いがない甲第一号証、乙第三二号証によれば、原告大原亨は亡松之助が保有していた同社の株式三四〇〇株(内訳旧株一七〇〇株、新株一七〇〇株)のうち、原告大原まつが相続により取得したことのない争いがない右二八〇〇株を除いた新株六〇〇株を相続により取得したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はないところ、これが相続開始当時の価額について検討すると、弁護の全趣旨によつていずれも真正に成立したものと認められる乙第二五号証の一乃至三、証人村岡道久の証言によれば、豊能税務署作成保管にかかる法人税決議書(神東興産分)添付の貸借対照表には同社の昭和二八年九月三〇日現在の純資産額が被告主張のとおりの金額である旨の記載があることは認められるが、更に右金額の算出経過を明らかにする等のこれを客観的に補強するものと認めるに足りる証拠のない本件においては、右純資産額を同社の総株式数で除した類を以て直ちに相続開始当時の価額と解することはできない。しかして他に右価額がいくらであるかを明らかにする証拠のない本件においては結局その価額は少くとも右株式の払込金額を下まわることはなかつたとしてこれが払込金額相当の価額であつたと解するほかはない。そうすると右の払込金額はいずれもその成立に争いがない甲第一三、第一四号証及び弁論の全趣旨によれば旧株のそれが五〇円、新株のそれが二五円であつたから原告大原亨が相続により取得した新株六〇〇株の価額は一万五〇〇〇円であるというべきである。

3 預金

(1) 同原告が普通預金(富士銀行津守支店及び日本信託銀行大阪支店分)八万三九八〇円を相続により取得したことは当事者間に争いがない。

(2) いずれもその成立に争いがない甲第一号証、乙第一三、第一四号証、第二八号証の一、二によれば、同原告は亡松之助が有していた普通預金(三和銀行順慶町支店分及び三菱銀行大阪西支店分合計)七〇二七円及び当座預金(三和銀行本田支店分)五七四円を相続により取得したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

4 現金

亡松之助の死亡当時の現金有高を推計したものとして大阪国税局協議官作成の資料(乙第三〇号証の一乃至四)があるが、果してこれがどの程度に実態を捕捉し客観的に適正であるか疑問であり、その記載内容そのまゝにわかに信を措き難く、他に認定の証拠資料はないから被告のこの点の主張は失当である。

5 未収入金

同原告が亡松之助の有していた未収入金債権金五万〇一六二円を相続により取得したことは当事者間に争いがない。

(二)  相続開始前二年以内の受贈財産

1 大同酸素から同原告に割当られた新株一三四〇株につき、亡松之助がその払込期日である昭和二七年七月一日一株五〇円の割合で総額金六万七〇〇〇円を同原告名議で富士銀行津守支店を通じて払込み、以て同原告に右金六万七〇〇〇円を贈与したことは当事者間に争いがない。

2 証人村岡道久の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二六号証の一及び同証言によれば、同原告は昭和二八年一二月一七日亡松之助から預金債権(神戸銀行魚崎支店分)金六万一〇〇〇円の贈与を受けたことが認められ、他に左右するに足る証拠はない。

(三)  債務

同原告が被告主張のとおり亡松之助の債務金七七万五三四〇円を相続により承認したことは当事者間に争いがない。

(四)  以上の事実によれば同原告の相続税の課税価格は、相続により取得した財産の価額の合計額金五三七万九三二二円に相続開始前二年以内の受贈財産の価額金一二万八〇〇〇円を加算した金五五〇万七三二二円から債務金七七万五三四〇円を控除した金額四七三万一九八二円であるというべきである。

三、以上からすると同原告の相続税の課税価格を金五三九万〇三〇〇円とした本件審査決定中金四七三万一九八二円を超える部分は違法であつて取消を免れないというべきである。

第二原告大原まつの請求について

一、請求原因一、三の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで相続税の課税価格について判断する。

(一)  相続により取得した財産

1 宅地

同原告が被告主張のとおり本件土地(持分1/8)を相続により取得したこと及びその価額が金八万六〇二二円であることは当事者間に争いがない。

2 家屋

同原告が本件家屋を相続により取得したことは当事者間に争いがないので、その価額について検討すると、いずれもその成立に争いがない乙第二、第二一号証の各一、第一六号証、証人河村昭三の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一七号証及び同証言によれば、被告主張の通達により算定した場合の本件家屋の価格は被告主張のとおり金二七五万七六〇〇円になること及び右価額が相続開始当時の時価として概ね相当な額であつたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない尤もその成立に争いがない甲第五号証によれば神戸市東灘区長は昭和二八年度において本件家屋の固定資産税額を金一六九万二〇一六円としていることが認められるが、一般に右の評価額が時価に比して著しく低廉であることは当裁判所に顕著な事実であるから右の事実は前記認定の妨げとはならないものというべきである。)

3 株式

同原告が被告主張のとおり神東興産株式会社の株式二八〇〇株(内訳旧株一七〇〇株、新株一一〇〇株)を相続により取得したことは当事者間に争いがなく、またその一株当たりの価額は旧株が五〇円、新株が二五円であることは前記認定のとおりである。そうすると右株式の価額の合計額は金一一万二五〇〇円となる。

4 預金

(1) いずれもその成立に争いがない乙第二号証の二、第二七号証、官公署作成部分はその成立に争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一一号証によれば、同原告は亡松之助が有していた定期預金一〇万〇二七二円(富士銀行津守支店分)及び普通預金二〇万円(日本信託銀行大阪支店分)を相続により取得したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2) 同原告が普通預金債権(富士銀行津守支店分)金二一〇円を相続により取得したことを認めるに足る証拠はないからこの点の被告の主張は失当である。

5 現金

原告大原亨の請求についての判断と同一であるからこれを引用することとする。但し三〇〇〇円の金額限度については同原告の相続を自認するところである。

6 払込生命保険料

同原告が被告主張のとおり払込生命保険料金二三五四円を相続により取得したことは当事者間に争いがない。

7 家庭用動産

相続の事実は当事者間に争いがなく、またいずれもその成立に争いがない乙第二号証の一、三によれば、その価額は金一〇万円を下らないものであつたと推認することができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

8 電話加入権

同原告が被告主張のとおり亡松之助の有していた電話加入権を相続により取得したこと及びその価額が六万円であることは当事者間に争いがない。

(二)  相続開始前二年以内の受贈財産

1 同原告が昭和二七年一一月二八日亡松之助から阪神電鉄株式会社の株式四〇〇株の贈与を受けたこと及びその価額が金五万二〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

2 証人村岡道久の証言によつていずれも、真正に成立したものと認められる乙第二六号証の二、第三三号証の一及び同証言によれば、同原告はいずれも亡松之助から昭和二八年四月二八日信託預金(日本信託銀行大阪支店分)金二万円、同年一二月三日銀行預金(神戸銀行魚崎支店分)金一六万二九〇〇円の各贈与を受けたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3 同原告が昭和二八年一〇月一日阪神電鉄増資新株払込資金三万五〇〇〇円の贈与を受けたことはこれを認めるに足る証拠はないから被告のこの点の主張は失当である。

(三)  公租

同原告が亡松之助の祖税債務金一九万〇一五〇円を相続により承継したことは当事者間に争いがない。

(四)  以上の事実によれば同原告の相続税の課税価格は、相続により取得した財産の価額の合計額金三四二万一七四八円に相続開始二年以内の受贈財産の価額金二三万四九〇〇円を加算した金三六五万六六四八円から租税債務金一九万〇一五〇円を控除した金額三四六万六四九八円であるというべきである。

三、以上からすると同原告の相続税の課税価格を金五二九万五六五二円とした審査決定中金三四六万六四九八円を超える部分は違法であつて取消を免れないというべきである。

第三結論

以上のとおりで原告らの本訴請求はいずれも右の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条及び第九二条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 松井賢徳 裁判官 仙波厚)

別紙

(原告らが相続により取得した財産の明細についての被告の主張及びこれに対する原告らの答弁)

〈省略〉

別表一(原告 大原亨分)

〈省略〉

別表二(原告大原まつ分)

〈省略〉

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